正当防衛の判例を見てみる その1 ~全面的に認められた例~

正当防衛が成り立つかどうかについて、今回は全面的に認められた例を紹介します。

事件の概要

判例:平成27(わ)849

容疑:暴力行為等処罰に関する法律違反(特別刑法)、傷害(第204条)

求刑:懲役2年

事件の内容は以下の通りです。

「被告人は,平成27年5月25日午前零時40分頃,横浜市内のa荘A方において,同人(当時49歳)に対し,その顔面を殴るなどの暴行を加えた上,持っていた包丁(刃体の長さ約21.3センチメートル)の刃先をその喉元に突き付け,「殺すぞ」などと言い,もって凶器を示して脅迫し,さらに,同人を畳に仰向けに倒して馬乗りになり,その右腕を左手でつかんだ上,その左顔面直近の位置において,包丁の刃先を畳に数回突き刺すなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する口唇部挫傷,右上腕部挫傷の傷害を負わせたものである。」

引用:裁判例 平成27(わ)849 ※PDF

簡単に言うと、Aに対して暴行を加えたということです。一方の弁護側は「被告人はAに対して平手打ちなどはしているが、それ以上の暴行は加えておらず、さらにAはこの時自傷行為をしようとしていたのでそれを阻止しようとしたために正当防衛が認められる」という主張をしました。

この事件に目撃者はおらず、検察官と弁護士、どちらかの主張が間違っているということになります。この段階ではあなたはどう考えますか?

事件の全容

まずは事件全体を時系列にまとめてみます。ただし、両者の言い分が一部食い違うため、一致するところのみをまとめます。

  1. 被告人とAが友人関係について口論になる
  2. 被告人がAに対して平手打ちをする。さらに被告人が包丁を使ってAを脅す
  3. Aが命乞いをすると被告人は脅しをやめる
  4. Aは2階から飛び降りる
  5. 飛び降りたAは力が抜けて倒れこみ、被告人がAを家に入れる
  6. Aは救急車を呼びたいと被告人に頼む
  7. 被告人はその場から立ち去り、Aは自ら救急車を呼ぶ

両者の細かい主張は以下の通りです。

検察官 被告人
被告人がAに対して傷害を与える目的で暴行を加え、包丁で顔面の横の畳を刺すなどをして脅した。さらにAが救急車を呼びたいと被告人に言ったときに被告人はかばんでAを殴り続けた。 Aが過去に自傷行為を行っていたことから、今回も口論が起きたことによって興奮したAがまた自傷行為に走るのではないかと心配した被告人がやむを得ずAの暴走を止めた。

この事件の争点は2つあり、暴行があったかどうか? そしてこの記事の本題となる被告人に正当防衛が成立するかどうかとなります。

正当防衛は認められるか?

まず、争点の一つである「暴行があったかどうか」に関しては裁判所は暴行はあったと判断しました。ただし、完全に認めたのは上に書いた時系列の②に当たる部分の暴行のみであり、包丁で「脅した」ことやかばんで殴り続けた事に関しては疑いの余地があるとしました。

また、同時にAが過去に異常行動を起こして自傷行為に走ったことがあるということも認めました。

では、この行動は正当防衛として認められるのでしょうか?

差し迫った状況だったかどうか?

Aは過去に自傷行為をともなう異常行動を起こしています。そのため、今回の口論によってAが興奮状態に陥り、再び自傷行為に走る可能性がないとは言い切れません。

そのため、裁判所は「Aの興奮状態はまさに差し迫った状況ある」と判断しました。

自分または他人を防衛するためかどうか?

先ほど述べたとおり、Aが自傷行為に走る可能性にあることから被告人はAの命を守るためにやむを得ず平手打ちをするという暴行を加えて鎮めようとしたと判断しました。

過剰防衛でないか?

Aは素手だったのに対し、被告人は包丁を使用しています。しかし、Aは空手の有段者だったため被告人がAを止めるためにはどうしても包丁に頼らざるを得ない状況であったと判断しました。包丁の使用は威嚇のみにとどまり、被告人と争って負傷したAのけがも全治1週間程度で済んでいます。

以上から、裁判所は被告人がAに加えた暴行は正当防衛であると判断したのです。

判決

被告人は正当防衛が認められ、無罪が言い渡されました。

ちなみに、被告人は証言において事件が発生したときに以下のような言葉をAに言ったとしています。

「刺してもやる。殺してもやる。でもな,自分の大切な人がいつも血だらけになる姿を見る気持ちが分かるか。お前には分からないだろう。だったら俺を刺
してみろ。」

引用:裁判例 平成27(わ)849

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