正当防衛の判例を見てみる その2 ~一部認められた例~

正当防衛が成り立つかどうかについて、今回は一部認められた例を紹介します。

検察の主張

判例:平成25(わ)206

容疑:傷害致死(第205条)

求刑:懲役3年

検察の主張は以下の通りです。

被告人が,本件日時・場所において,Aに対し,その顔等を左右の拳で複数回殴り,その胸付近を両手で強く押し,Aをその場に転倒させてその後頭部を壁に打ち付けさせるなどの暴行を加え,よって,Aに左右硬膜下血腫,左右大脳クモ膜下出血等の傷害を負わせ,翌日,本件場所において,Aを前記傷害に基づく脳障害により死亡させた

引用:裁判例 平成25(わ)206 ※PDF

簡単に言うと、Aに対して暴行を加えたことによってAが亡くなったということです。一方の弁護側はこの暴行はすべて正当防衛であるという主張をしました。

事件の全容

まずは事件全体を時系列にまとめてみます。

  1. 被告人とAが家で酒を飲んでいた時に口論になる
  2. Aがいきなり被告人に攻撃してきたため、被告人もAで反撃を行う
  3. その後も揉み合いが続く。被告人がAに対して攻撃を加えたのはAから押さえつけられているときのみである。(この揉み合いによるけがが原因でAは命を落とした)
  4. 被告人が家にあった模造刀を振り回してAを脅す
  5. 再び揉み合いが起こるが、今度は被告人も積極的にAに攻撃を加える

今回の裁判の争点は被告人がAに対して行った攻撃は正当防衛に当たるかどうかというところになります。

裁判所は赤字の部分を第1暴行、そして模造刀を振り回した後の青字の部分を第2暴行と分けて考え、それぞれに正当防衛が発生するかどうかを判断しました。

第1暴行の正当防衛はどうか?

まずは第1暴行の様子について正当防衛の条件が成立するかどうかを見ていきます。

差し迫った状況だったかどうか?

揉み合いの発端となったのはAの被告人に対する攻撃からです。

そのため、裁判所は「このときの被告人はまさに差し迫った状況ある」と判断しました。

自分または他人を防衛するためかどうか?

揉み合いで被告人もAに攻撃を加えていますが、この時はAからの攻撃に対してそれを振りほどこうとする意志が強く、Aから押さえつけられたりなどをされていないときは被告人はAを攻撃していないので、被告人の行動は「自分を守るためであった」と判断しました。

過剰防衛でないか?

Aが攻撃してきたとき、被告人の急所を狙ってきました。被告人はこれを振りほどこうとするが失敗した様子がうかがえ、被告人がこの危機を脱出するためには多少の攻撃はやむを得なかったと判断しました。

以上から、裁判所は第1暴行に関しては被告人がAに加えた暴行は正当防衛であると判断したのです。

第2暴行の正当防衛はどうか?

次に第2暴行の様子について正当防衛の条件が成立するかどうかを見ていきます。

差し迫った状況だったかどうか?

第1暴行とは違ってこの時は被告人は模造刀を振り回してAを威嚇しました。この段階で被告人に対する差し迫った脅威はすでに終了していると判断しました。

さらに、第2暴行においては被告人もAに対して積極的に攻撃を加えていることから、第2暴行に関しては正当防衛は成立しないと判断しました。

最終的に、第1暴行は正当防衛である、第2暴行は正当防衛には当たらないとしました。

判決

被告人は罰金10万円の刑罰が言い渡されました。

罪となった部分は第2暴行における部分ですが、Aの死因は正当防衛が認められた第1暴行の方であり、第2暴行に関しては「軽い暴行罪」の要件であると判断して、このような刑になりました(検察が主張した傷害致死罪は適用されませんでした)。

このように、一つの事件であってもその内容を分けたうえでそれぞれの状況に対して正当防衛が認められるかどうかが判断されることもあります。

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